3-2 意味論的構文解析
 従来の構文解析は、idesで使用しているCabochaのように「係り受け解析」を基礎とするものが大半でした。 もちろん、係り受け解析は、構文解析の最初の一歩であり、これがうまくできなければ、あとの処理は全部うまくいかないとも言えるもので、とても重要です。
 しかし、係り受け解析だけでは、充分に「文の意味」を抽出することはできません。 「高田の趣味」という語句であれば、係り受け解析によって「(高田 の)趣味」というように適切に展開されますが、それが何を意味しているのかを知るためには、さらに詳細な処理が必要になります。
 たとえば、そのな場合、まず、「高田」というトークン(idesの一連の研究では、チャネル理論に沿って「名称」を「トークン」という語で表現します)は、 ある人物[α1]というタイプ(同じく、チャネル理論に沿って、内部で用いられる概念のことを「タイプ」という語で表現します)に分類されます。 同様に、「趣味」というトークンはα2というタイプに分類されます。 さらに、「高田の趣味」というトークンは、α3というタイプに分類されますが、そのときα3は、[α1の α2]という下位形式を持つことになります。
 そしてさらに、「高田の趣味は盆栽です」(※ウソです)という文をF1というトークンであるとすると、

F1 |= φ1 ("|=" という記号は、x |= y  という場合に、xがyに分類される ということを意味します)

というように、φ1というタイプに分類され、また、φ1というタイプは、

 φ1:α4(α3)
 φ1:α4(α1の α2)
 (ここで、x(y)とは、yがxというクラスに分類される、という意味です。)
 「盆栽」 |= α4

なる叙述文(事実)が登録されることになります。
 このように、少々面倒な形式に変換することによって、たとえば、

 「高田の兄の妻の弟」

などという表現であっても、

 「高田」 |= α1, 「高田の兄」 |= α5, 「高田の兄の妻」 |= α6, 「高田の兄の妻の弟」 |= α7 

という4人の人物を、それぞれ概念(タイプ)として登録することができます。 そうすれば、「高田の兄」の固有名詞が「高田たかし」だとした場合に、 「高田たかしの妻」と「高田の兄の妻」が、同じタイプ(概念)として登録されます。

 このように、それぞれの概念の意味や、文の意味構造を反映するように、あるメタ形式に変換するやりかたのことを、 「意味論的構文解析」もしくは Semantic Parsing と呼びます。